瀬音に耳を澄ます



 窓を叩く雨音が一定のリズムを刻む。つけっぱなしのテレビからは「関東梅雨入り」という字幕つきのニュースが流れていて、条は隣で退屈そうに携帯電話を操作していた。わたしは手元に収まっていたコーヒーカップを置いて、なんとなく彼の太ももあたりに頭を預ける。うお、と小さな声を出した彼が視線を携帯電話からわたしに移した。

「なぁにぃ?」
「あめ、」
「雨?」
「ふっちゃったねー」
「あぁ、ちとせ雨女だからねぇ」
「ちがうよ、梅雨だもん」

 はいはい、と呆れたように笑って、再び視線は携帯電話に戻る。筋肉質な太ももは枕には全く適していなかったけれど、耳もとに伝わる体温が心地よかった。
 雨の日は、時間の経過が曖昧でいい、と思う。朝から夕方まで同じような明るさのまま、そこにいていいよ、と優しく言われているような気になる。わたしはそんな天気に甘えるように重たくなる瞼をめいっぱい開いた。

「かまってほしいのかと思ったら、眠いの」
「んー、」
「寝ていいよぉ」
「……寝ない」
「なんで?」
「条がいるから、」

 わたしの言葉に彼は、ふふんと鼻を鳴らして満足気に笑った。一緒の時間は大切だと思う。甘い時間はお互い得意ではないけれど、できるだけひっついておきたいと思うのは当然だ。彼は携帯電話をテーブルに置いて、手持ち無沙汰になった右手でわたしの左耳のピアスを指の腹でころころと撫ぜた。

「なあに、」
「ん、痛くないのかなぁと思って」
「最初だけじくじくして、ちょっと痛いよ」
「じくじくってなぁに、」
「なんだろ、ズキズキより、ちょっと水っぽいかんじ?」
「ふぅん」
「……今ので伝わったんだ」
「ちょっと熟した、みたいな感じでしょ」
「さすが」
「さわってもいたくない?」
「うん」

 「そっか」と言って、まあるいピアスをなぞるように耳朶をさわる。たまに頬に触れる骨ばった指におさまった金属が冷たい。つめたいよ、と言えば、きもちいいでしょ、と甘ったるい声が降ってくる。甘くて、優しい声。

「なんか今日すごい甘やかされてる」
「そう?」
「じょう、」
「なぁに?」
「いま、なに考えてる」
「……たぶん、同じこと考えてるよ」

 手を伸ばして、髪の毛に指を絡ませると、彼はなにも抵抗せずに、ただされるがまま、穏やかな顔でこちらを見ている。いつの間にか雨は止んでいて、カーテンの隙間から、一直線に光が差し込んだ。「眩し、」と言って目を細める彼を見つめて、ぬるい眠りに微睡む時間を、ひどく幸せだと思った。