オレの彼女はいつも傷だらけだ。
精神的な意味ではなく、物理的に。
どうやったら、こんなに痣をつくることができるのだろう。オレがいないところで遊びに出かけても安心な程度には警戒心も強くアルコールにも強く、きちんと理性を持った人間の筈なのに。
「また増えてんぞ」
「え?どこ?」
「そこじゃねえ、そっちの、裏の」
「へーほんとだ」
なに、どうやったらこんなんできんの、とオレが溢すことも当然だ。なのに彼女は特に気にすることなく、オレの目の前にまた増えた痣のはっきり見えるショートパンツの部屋着に着替えて立っている。
かけたてのドライヤーのぬくい感覚と一緒に立ち上る彼女の香り。ありふれたドラッグストアで購入出来るものの筈なのに特別な香りに思えるのはどういうことなのだろう。
「れーんくーん」
「マジで気ぃつけろよ」
「うん」
「歩きスマホもやめろよ」
「はーい」
蓮くんがお母さんよりお母さんみたいになっちゃった、と悪びれることなく、赤い痣と青い痣と黄色い痣と、子どもの頃に掻きむしって残った小さな傷のある足をゆったり組んで、彼女はオレの隣に座っている。友達もよく知らない間に痣できるって言ってたけどね、なんて呑気に宣いながら。
シャンプーの香りとヘアオイルの香りがあたたまっている。首筋、そして身体全体のいつもより上昇した体温や、ひどく幼く見えるなんの化粧も施されていない顔。つるりとした白く細い足も血行の良さからか少しばかり赤らんでいて、余計に傷は目立つ。
足だからいいものの、もしもこれが顔だったら、とも少し思う。例え顔だろうと腕だろうと足だろうとオレは別に気にしない、筈というか、そういう男でありたい訳で。
それではなぜ、オレがこんなに浮き上がるようにはっきりと見えてしまうその痣に小言を言ってしまうのかと言えば、理由は単純明快だった。
「オレの彼女だろ」
「お母さん、は例えだよー」
「ちっげえわ。ちゃんと気ぃつけろよって話」
「はーい、蓮くんの女として気をつけます」
オレの言葉は微塵も効いていないらしく、また知らない間に痣を作ってくるであろう彼女はにっこりと微笑む。
レンクンノオンナ、言い慣れない言語を歌うように彼女が口ずさむから、まぁ今はそれでいいのか、とオレは妥協してしまう。
それでいいのか?と思いながら。