LIQUID



 ひまわりがやっと咲いたんだ。
 目に沁みるくらい鮮やかなイエロウがきれいだろうって差しだしても、彼は雪の白い色のほうがずっと美しいなどと言って、ぐるぐるに巻いたマフラー越しのくぐもった声で笑う。僕たちはどうも噛み合わない。

 僕が彼にあげたひまわりは、カフェのカウンターに置かれた小さなガラス瓶のなか、ひとりぼっちで頭を垂れている。持ち帰ればすぐに枯れてしまうから、と彼が置いていったのだ。
 カフェテリアボンゴレ、店の主であるツナ君はこのひまわりについて、何も言わないでいる。しかしこの店のもうひとり、ツナ君の付き人のようにしてくるくるとよく働く獄寺君という青年は、できるかぎり長持ちするようにと、哀れなひまわりにいろいろな策を講じてくれているようだった。獄寺くん、いつもありがとう。僕が言うと、テメエのためじゃねえ、あれも世話しねえと、枯れたら十代目が悲しむだろうが。カフェの店先に年中無休で咲き誇る春の花々を親指で指して、獄寺君は決まって首を横に振る。

、エアコン、温度上げよ」

 半袖のシャツからむき出しの二の腕を擦りながら言っても、すっかり冬の装いをした彼は頑として頷いてはくれない。店の外は暴力的な暑さだ、夏だ。だのに店内は真冬のように寒い。彼が来店するたびに有無を言わせず、すっかり自分好みの気温にしてしまうからだ。いつものことなのだけれども。カウンターに立つツナ君と獄寺くんなんてぼく以上にひどい顔をしている。(僕がこの極寒に耐えられているのは、冬を愛するの、愛ゆえに、だ。)

「いやや、暑いの、炎真はおれが溶けてもええのん」
「い、いや、そういうことじゃないよ」
「じゃあどゆこと」

 どういうこと、でもないのだけれど。返答に詰まった僕を横目に、彼は無糖にクリープだけをほんのすこし溶かしたドリップコーヒーを啜った。
 僕は何度目だかわからずに身震いをする。でもこの寒さこそが、傍らに彼がいるという証だ。触れたら熱いだの溶けるだのと文句ばかり、でもどんなに暑くたって僕がプレゼントしたマフラーを外さないところとか、実は毎年、花瓶で枯れた後のひまわりの種をツナ君からもらって、大切に保管しているところとか、いとおしいところが数え切れないから、どんなに寒くたって僕は平気なのだ。ドエムでは、ないけれど。
 すきだよ、とか、あいしてるよ、とか、そういったものはもうなんだか月並みすぎて憚られる。手を握れば熱い溶けるとぶうたれる彼が、もしほんとうに溶けてしまうのならば。どろどろになった、否、さらさらと流れ出た彼を、この厄介で愛おしい夏ごと、一息に飲み込んでしまおうと思っている。