夜明けの落下 1



 ボンゴレ嵐の守護者こと獄寺曰くのバカ牛、もといランボが雷の守護者になる前に属していたボヴィーノファミリーが所持している秘伝の武器に、10年バズーカ、というものがある。武器と言っても殺傷能力はなく、撃たれた者は5分間だけ10年後の自分と入れ代わるという一種の転送型タイムマシンだ。ドラえもんも腰を抜かして失禁するような随分大雑把で大層夢のある武器であるが、この10年バズーカ、実はちょくちょく問題事の種となっている。
 普段のぞんざいな扱いからはあり得ない程デリケートな機械で、故障しやすいのが難点なのだ。寧ろその粗雑な扱いが故障の原因なんじゃないかという意見もあるがそれもまた一つだろう。そしてその場合、精神を残して身体のみが入れ替わる、被弾者と10年前との入れ替わりが起きるなど、正しく作動しなくなってしまう。これで大騒ぎになったことは一度や二度では済まされない。その度に雷を落としているのにも関わらず幾度となく事件を起こされているのだから、個人的にはとても忌々しい武器だと思う。懲りろよ。
 また、10年後の被弾者がさらに被弾すると最初に被弾する前から20年後の被弾者が現れるのだが、何度使っても制限時間はリセットされず、最初に被弾した時から5分経つと最初に被弾した時の姿に戻るのだという。便利なのか不便なのかはわからないが、とりあえず大まかに言うと10年バズーカとはそういうものなのだ。

 さて、なぜこんなにも長々と10年バズーカの説明をしたかというと、答えは単純明快。
 俺が故障した10年バズーカに被弾したからである。


「……………………」


 床にぺたりと尻餅をついて随分と間抜けな格好を晒している俺の目の前には、知らないひとがたくさんいた。一瞬、任務でどこぞのファミリーに乗り込んだところなのかとも思ったが、相手方からは警戒こそされているけれど殺気もなにも感じないからどうやら違うようだ。そして当たり前だが全員が全員、本当に、これっぽっちも、遠い親戚ですらもない赤の他人だ。何故だ。
 冒頭で前述した通り、本来10年バズーカというものは10年後の自分と入れ代わるものだ。俺の10年後の姿など想像できないししようとも思わないが、少なくとも今現在俺はボンゴレファミリーに属しているマフィアの構成員だし、マフィアなんて物騒な組織からそう簡単に足を洗えるものじゃない。今更シャバに出ようなど自殺行為も甚だしい。少なくとも齢24を越えている時点で転職などまず考えもしないだろう。だから34歳になったとて俺のいるべき場所はボンゴレであり、俺の目の前にいるべき人たちはボンゴレの構成員たちであるはずなのだ。なのに、何故だ。

「…………ええと、」

 警戒、敵意、好奇、興味。自身に向けられる様々な視線を痛いほどに感じながら、物理的に痛む背中から臀部にかけてを軽く摩りながら言葉にならない言葉をため息と共に吐き出した。ああ、とても気まずい。
 自分を取り巻く環境と、その異質さを忘れていたわけじゃなかった。マフィアという非日常を日常だと諦念していたのは自分だった。ただ失念していたのかと問われれば口を噤むことになるのは必至で、要するにこれは俺のミスに他ならなかったのだ。

「……ここ、どこ?」

 とりあえず、無事に戻れることがあったらランボを2、3発ぶん殴っておこうと思った。