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骨まで食して構いませんよ



「……おいしい!!おいしい!!」
「当たり前でしょ、俺が作ったんだから」
「さすが縢!」

 餃子を頬張りながらへらりとが笑う。その姿をカウンターに頬杖をつきながら眺めるのは存外居心地がよかった。けれど内心はそれだけじゃ自分が満足できないことはわかっていて、それでも彼女にその欲をぶつけることができないことも理解している。これを不毛と言わずなんと表現していいのか、縢にはわからなかった。

 餃子が食べたい、と唐突に彼女が言い放ったのは、縢が非番のため執行官宿舎の自室で暇を持て余していたときだった。
 なんで餃子なの、と問うと彼女は一瞬なぜそんなことを訊くんだろうと言わんばかりにきょとんと目を丸くしたあと、ゆるゆると苦笑して友達が好きだったの、と呟いた。
 その僅かに翳った表情と口ぶりで、彼女の言う友達とやらには恐らくもう二度と会えないというニュアンスが含まれていることは容易に想像がついてしまった。そして、彼女がその友達をとてもとても大事にしていたのであろうということも。

 何度閉じ込めてしまいたいと思ったかわからない。手足に枷を嵌めて鎖で繋いで、自分の目の届く範囲にいてほしいと何度願ったかわからない。でもそんなことができるはずもないことくらいはわかっている。
彼女は飛び立つ時に跡を濁さないタイプの人間だ。特殊な事情ゆえに今でこそ大人しく翼を畳んで公安局刑事課未詳事件特別対策係という鳥籠に収まっているけれど、理由という鍵さえあればすぐにゲージを開けて、きっと自分がそこにいたことの証明すらも消して飛び去ってしまう。繋ぎとめておくことなんてできない。そんな自由さが彼女にはあったし、それが実際にできてしまうのだろう。
 その自由さを奪ってしまったらきっと彼女はからっぽの、中身のないただの人形になってしまう。だからできない。したくない、というほうが正直な気持ちかもしれない。

 だから今現在、自分の目の前で笑っている彼女を見ていられるだけでも幸福なことなのだと無理やり納得することでしか、自らを律することしかできないことが、ひどく情けなく、そして腹立たしかった。
 そんな汚い考えさえもじわりじわりと皮膚から漏れ出ていってしまう気がして、縢は蓋をするようにそっと目を閉じた。