召しませ膵臓 1



 先のヒーローインターン説明会で、ミリオがヒーロー科の一年生らと模擬戦闘を行ったという話は環くんから聞いた。そこで全員を凡そ5秒で制圧したということも。なんだ5秒って。容赦なさすぎでしょ。いくら当該の一年A組が実際にヴィランとの戦闘を何度か経験しているといっても、まだ入学して半年程しか経っていない一年生だ。やりすぎなければ正義じゃない、とはよく言ったものだけれども、ミリオは加減を覚えるべきだと提言したら、どうやら環くんも全く同じことを言っていたらしい。それならば懲りてほしい。
 そしてこれもミリオ本人ではなくねじれちゃんから聞いた話なのだけれども、その模擬戦闘でどうやらミリオはお気に入りの後輩を見つけたようだった。当該の後輩、緑谷出久くんは今ミリオのインターン先であるナイトアイ事務所へ共に研修に行っているらしい。あの堅物サー・ナイトアイをどうやって落としたのかはわたしの知るところではないけれども、ミリオが気に入っているのだからそれなりの実力者であるのだろう。体育祭でもトーナメントまで進んでいたはずなので、恐らくそこそこに頭も切れるタイプだ。
 まあわたしはミリオや環くん、ねじれちゃんのようにビッグ3と呼ばれる程の実力はないし、インターンにも行ってはいるけれど一年生との接触を図る機会などそうあることではないだろう、と高を括っていた。……の、だけれども。

「……んんん、相澤先生、これは一体どういう」
「お前らには今からこの三年生と模擬戦闘を行ってもらう」
「待って」

 わたしの言葉なぞ聞こえないといった顔で、目の前にいる一年A組の面々に相澤先生はそう宣った。ざわり、と一年生たちがどよめく。
 朝、インターン先の事務所から突然「今日はこっち来なくてもいいよ」と連絡が来たものだから、なにか仕事の関連で不都合が生じたものだとばかり思っていたのだけれども、どうやら相澤先生が仕組んだものだったらしい。そもそも、スナイプ先生に「今日のヒーロー応用学は特殊だからイレイザーの方に訊いてくれ」と言われた時点で気づくべきだったのだ。迂闊すぎる。

「相澤先生!そちらの方は一体誰なのですか!」

 面々で一番背の高い子――恐らくクラス委員長だろう、そう、確か体育祭で三位だった、飯田くん――がビシリと垂直に挙手をしながら問い掛けた。

「彼女はヒーロー科三年の、クラスは天喰と一緒だ。まあ、お前らの先輩だな。で、今日はお前らにこいつと戦ってもらう」
「待って」

 何故か本人の承諾なしに話が進んでしまっている。由々しき事態だ。

「クラスでの戦闘訓練じゃだめなんですか?」
「クラス内だと個性は割れてる上に対策もすぐに組めてしまう。より実践的な訓練だと思えばいい」
「なんでまた三年生と戦うんですか?」
「先日に通形ミリオと戦ってお前らも三年生との距離感はおおよそ理解できただろう。上を見据えた方が成長の幅も大きい」
「先輩の個性はなんですか?」

 けれどもその質問に相澤先生は答えず、ちらとこちらを見遣った。それだけで言いたいことがわかってしまい、僅かにため息を溢してから重々しく頷く。先生はきっと、わたしが”もう一方”の個性を使うことを望んでいる。できればあまり使いたくはないのだけれども、そうも言っていられないだろう。ここまでくれば引き返すのも白けてしまうし、なにより、ミーハーな感じになってしまうが話題の一年生に私も少なからず興味はあったのだ。いい機会だと思うことにしよう、うん、そうしよう。

「……えーと、ヒーロー科一年A組の皆さん初めまして、といいます。今日は皆さんと戦えと相澤先生が仰っているので、まあ、そういうことです。個性は、まだ言いません。わたしはミリオみたいに全員でかかってこいとか言えないので、まずは一戦してから、皆さんの観察力がどの程度かを見せてもらおうと思います」

 ちらりと相澤先生に視線を遣ると頷かれた。よかった、合ってたみたいだ。安堵から僅かにため息をつく。それから面々を見遣って声を張った。

「んんん、じゃあ、どうしようかな、この中で一番"火力のある個性"の人とか、いる?」

 空気が一瞬にしてピリついたように感じた。一年生たちは逡巡の必要もなかったのか、一斉にひとりへ視線を集める。と同時に、わたしに向けられる、肌がピリピリするような殺気めいた視線も感じた。
 ……いや、まあ、わかってたはいたけれども。わかっていて、わざと言ったのだ。体育祭のVTRも見たし、火力という点に於いてきっと、彼の右に出るものはこのクラスにはいない。

「じゃあ、爆豪くんだね。よろしくね!あ、サシでも大丈夫?誰かと組んでも」
「俺一人で大丈夫だわナメんな」

 おーい、人の話は最後まで聞こうよ。本当に口も悪けりゃ目付きも悪いんだけど、万年反抗期なのかな。そういうの将来黒歴史になるから気をつけたほうがいいよ。まあ、いいけど。

「うん、じゃあ相澤先生レフェリーやります?」

 先輩の胸を貸してあげようじゃないか、後輩よ。