結婚式はふたりきりがいい。海外とか、すごくちいさな教会とか、そういう場所でひっそりと挙げたい。
すこしの緊張と共に切り出した提案とも言い難い俺の意見に、さんはやわらかに薄く微笑みながら「ロマンチックでいいね」と答えた。あまりにもあっさりとした返答に俺は逆に驚いて、「理想とか、親御さんに晴れ姿を見せたいとか、そういうのはいいのか」と、自分から言い出したくせに妙な焦りをおぼえて尋ねる俺に、彼女は依然としてたたえた微笑みを崩さないままに、またもやあっさりと答えた。
「環くんがいてくれれば、それがすべてだよ」
神様に誓うまでもなく、俺たちはずっと一緒に生きるのだろう。その考えはお互いにお互いが自然と持っていて、それならば格式張った言葉もいらないね、というのがふたりの出した結論だった。「一生一緒にいてほしい」「もちろん」たったそれだけで済んでしまった誓いの言葉に、ふたりして顔を見合わせて笑う。
「……こんな俺だけど、責任持って幸せにするから。これからも、よろしくお願いします」
急に畏まった俺を見て、さんはきょとんと碧の目を瞬かせた。けれどもすぐにたおやかに微笑んで、恭しく頭を下げる。
「こちらこそ。不束者ですが、よろしくお願いします」
「……それ、お見合いの時に言うやつじゃないか？」
披露宴もお色直しも感動的なスピーチもないけれど、充分すぎるほどに幸せで、さんの笑い声は他のどんなものものよりも祝福と愛に満ちていた。どうか彼女も同じことを思っていてほしい。
そして願わくば世界中の全てに、この長い長い本気の初恋が叶ったことを祝ってほしいと、柄にもなく思ったのだった。