「べつに、おまえの誕生日祝うために来たわけじゃねえし、クリスマスにまともな休みなかったから、遅れ馳せながら満喫してやろうと思ったっていうか、」
居心地が悪そうにふよふよと視線を彷徨わせながら、どう考えても嘘だとわかりきっている言い訳をぼそぼそと吐き出している。素直じゃないのは相変わらずだ。
でもね、さん。俺知ってるんですよ。
この時期のホールケーキ、特に苺のショートケーキなんて、ほとんどがクリスマス仕様のものばっかりだ。そもそも普段からケーキどころか洋菓子の類も滅多に食べないくせに、それをわざわざクリスマス用の装飾がないものを買ってきて、ひとりじゃ食べきれないから消費するの手伝えよ、なんて。すこし照れたように、しろい頬をうすく染めた顔がどれだけこの胸を苦しくさせるかなんて彼は知らないに違いない。ほんのりと赤みを帯びた頬と鼻先は寒さのせいだけじゃない。
へたくそな嘘も誤魔化しも、すべてが純粋なる愛しさとなって胸のうちを満たすものだから、俺は抑えきれない口許の緩みを隠すことなく阿呆みたいな顔をして笑ってしまう。
ああ、本当に、この人が愛おしくて仕方ない。
「好きです、ずっと一緒にいてください」
握りあった手がとても暖かい。
心を預け、その期待は決して裏切られることはないのだという確信を与えられることに匹敵する幸福感など、そう簡単には得られないような気がした。