かわいい!と人に言われると決まって「もう俺28歳だよ」と困ったように笑う。どう対応したらいいのか本当にわからないといった風に。下げられた眉毛とその表情は無い筈の母性をくすぐってスチャラカなタスクの仲間を笑わせる。
尖っていることを主張していた髪型は、丸くて触れても怪我しないような文字通り可愛いものにとなったけれど、強すぎるくらいの眼光と頼りない肩幅は変わりやしない。堂上、堂上と半ばすがるみたいだった獣はもういなくなって、彼には剥き出しの優しさだけが残った。例えるなら子猫みたいな害のない愛らしさで、可愛いと言われるのもおかしくない。
お互い年をとったのだと思う。今では抵抗なくすんなりと納得できる、簡単すぎるくらいの理由。それは別に嫌なことじゃない。
愛ってきっと、こんなものだ。静かで波が小さくてほんの少し永遠が見える、そんなもの。これをまことだと受け入れて、手に出来るまでどれだけの時間がかかったことだろう。簡単すぎて何度疑い、もっと高等で難解な意味を探そうとしてきただろう。今だからこそ、その時間こそが大事なのだと余裕ぶって思うことができる。
もう一緒にいるようになって何年が経つのだろうか。肩の力を抜いて、愛を語らずとも隣にいれば満たし合える関係はいつから築けたのだろうか。
「堂上、ふとんに掃除機かけてくれた?」
「それくらい自分でしろ」
「めんどくさいじゃん。もう眠いもん」
「じゃあ寝たらいいだろう!」
「花粉がまいまいすんにゃもん」
「お前ってやつは……」
めんどくさいのは俺も同じだと睨むと凌は悪戯小僧みたいな顔で笑ってから、俺のベッドに潜り込む。まだ掃除機してないだろ。いいのか。俺はもう知らんぞ。
今夜も武蔵野のまんなかで、天使はすやすやと穏やかな寝息をたてて平和に眠っている。たまに、くしゃみを挟みながら。