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朦朧とする意識は、ベッドで横になっていても目眩を引き起こす。
常世は重い瞼を強引にこじ開けて、いつもよりも高く感じる天井を眺めながら熱い額に手を当てた。じっとりとした汗を拭い、再び目を閉じようとすると微かな物音が半分閉じかけた耳に聞こえてきた。それがなにか、と考える余裕はどこにもなく、ただ唐突に喉に乾きを覚えてベッドから這うように出る。ふらつく足で台所に向かうけれども、普段数歩で行けるはずの距離がやたらに遠く感じる。ひやりとしたフローリングの冷たさが足の裏から伝わって、僅かに鈍った頭が冴える感覚がしたけれども、全身に熱が纏わりついた身体はついにずるりと崩れ落ち、壁をつたってその場に座り込むことを選んだ。そして熱い吐息に浅くなる呼吸が、一歩を動くことすら阻む。壁に不安定な頭を押しつけて、どうにか立ち上がるだけの気力を取り戻そうとしたとき。霞む視界の中に水の入ったグラスが見えた。
手に取るために持ち上げた腕は自分のものとは思えないほど重かったけれども、そっと手の中に冷たいグラスを置き、
常世の手ごと包んだ誰かの温度がそのまま口元へと運んでくれた。こくり、と喉を鳴らして飲んだ水が甘く体に染み込んでいく。その感覚にようやく呼吸が落ち着きを取り戻し、一度深く息を吐いた。
「……大丈夫か」
はい、と答えようとしたのはそう、条件反射。
痰が絡み、一瞬顔を顰めた間に上げた視線を受け止めたのが、彼でなければよかったのだろうか。
「せん、ぱい……」
ぐらぐらする頭が嘘だと言う。なのに、
常世の肩を抱いて心配そうに顔を覗き込む五条の表情があまりにも。あまりにも、あの時と同じすぎて。
弾き飛ばす力は熱を持って怠さを纏った身体にあるはずもなく、逆に自分の体が後方に引きずられて五条に抱きしめられる形になった。けれど、悔やむ時間は
常世に与えられることはなかった。触れた体温、優しい腕。耳元で「大丈夫か?」と柔らかい声色で問い掛けられれば、熱に侵されて張りつめていた神経は途端に弛む。気づけば
常世は、五条のワイシャツを掴んで泣いていた。ひとりでベッドで横になったときに感じた漠然とした寂寞と不安が、背中をさすられる度に溶けていく。嗚咽に合わせてぽんぽん、と背中を叩くリズムがひどく心地よくて、五条の肩に顔を埋めて
常世は泣き続けた。
「っ、せん、ぱ……ふ、」
「
八意……
八意、ちょっと離せ。な?」
「や、……」
「とりあえず、ベッド戻ろう。今飯そっち持ってくから」
顔を濡らす涙を人差し指で拭いながら微笑む五条になにも言えず、
常世はほとんど抱えられるように自室に戻った。布団を被せられるその瞬間、額に触れた温度がなんなのか、理解する前には意識が遠のいていた。
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