ぼくはヘヴィー級



 呪霊を祓い終えて今回の任務地であった廃ビルを出たが秋晴れに目を細める。彼が寒くなってきたなあと言ったので、今晩は鍋をすることにした。「鍋ぇ?はやない?」眉間の皺を深くしたを連れてスーパーへ入り、白菜、にんじん、しいたけ、えのき、豆腐、鍋の材料になりそうなものを次々とカゴに入れていく。寒くなったって言ったら鍋じゃん?確かにちょっと早いかも知れないけど、いつ食べたっておいしいもんはおいしいんもんよ。

、肉なにがいい?」
「鶏」
「うーん、そんなんだからどんどん痩せてくんじゃねえの?悪いけど俺は豚の気分なんだわ、はい豚肉」
「俺に選択権ないなら最初から訊くなよ」

 カゴとスマホで両手の塞がった俺に対してバックパックひとつで両手の自由な選手渾身の右ストレートが俺の鳩尾に直撃。虎杖選手なす術なく一発KOかと思われたがカゴの中身を捨て身で死守、鍋のお肉は豚バラ肉に決定。何鍋がいいかと尋ねたら豆乳鍋、と女子のようなことを言うもので、陳列棚の一番目立つところに置かれたパウチをひとつカゴの中へ。正直言うなれば俺はキムチ鍋がよかったけれど、五条先生並みとはいかないまでもそれなりに甘党なを捕まえてキムチ鍋なんて言えない。俺もそこまでゲスじゃない。
 お酒を何本か買い足してレジを通る。以前なら必ず足を止めていたお惣菜コーナーは素通りした。二十歳を過ぎてから食事にひどく気を遣うようになったは脂っこいフライやらなんやらを好まない。晩ご飯ならなおさらだ。安さや見た目に惹かれて買ったところで、結局はほとんどを俺が食べる羽目になって、結果おれだけが肥えてゆくなんてことになる可能性がなきにしもあらずなので、自然と見向きもしなくなったのだった。彼につられて俺もすこしはローカロリーな食生活を営めている、と、思う。気のせいかもしれないけど。いなかったらふつうに食っちゃうもんな、意味ないなたぶん。
 レジ袋をふたつもらって、片方にお酒や豆腐、にんじん、とにかく重いものを詰めていく。このあたりでまた隣で突っ立っているの眉間に刻まれた溝がどんどん深くなっていくのだけれども、気づかないふり。もう片方の袋にはきのこ、俺が誘惑に負けてカゴに放り込んだスナック菓子なんかを詰めた。なに食わぬ顔で両方の袋を持って自動ドアをくぐると、なんとなく居心地が悪そうな顔のが「かたっぽ持つ」と言う。「はいよ」これまたなに食わぬ顔で軽いほうを差し出す。口をもごもごさせて、けれども結局なにも言わないが受け取ったのを確認して、並んで家路につく。いつものパターンだ。

「俺、おまえより力あんねんけど」
「そうかもなあ。でもそういう問題じゃないんだなあ」
「……ええかっこしいやねえ、悠仁は」
「そうだな、"ええかっこしい"なんだわ俺」

 へへ、と笑うと踵を踏まれた。買い物から帰る道、の顔はずっとむずむずしている。俺はその顔がわりと、というかとても好きだったりするので、重いレジ袋の取っ手が指に食い込むのだってぜんぜん気にならないのだった。もっと重いもの持たせろって言うのなら、俺と手を繋ぐのがいちばんだと思うんだけど、そんなことを言うと右ストレートでは済まないので黙っておく。