冬が似合う人だった。これはわたしだけの漠然とした感覚だから根拠はないし、はっきりとした理由は、あまり良いとは言えないわたしの頭じゃよくわからないけれど。
ただ、五条くんと出会ってから、この季節があんまり嫌いじゃなくなったのは本当。寒いのにはめっぽう弱いし嫌だけれども。あ、あと街に流れるラブソングも、電飾をいくつ使っただとかのどうでもいい事情をニュースで伝えるイルミネーションも、あまり好きになれないかなぁ。半分くらい洗脳だよねって辟易した顔で言って、冷めた声で笑われたのがちょっと前の話。
「明日も寒いのかなぁ」
「まぁそうでしょ」
こたつに突っ込んでいる足を五条くんの長いおみ足に軽くぶつけた。当の五条くんはといえば、さっきからスマホのゲームに夢中でわたしと話してても心ここにあらずって感じ。さっきは会話の途中で唐突に、あ!って声を上げたかと思ったらコンセントを探して充電し始めちゃったし。充電しながらもなおゲームしちゃう悪い子からはしっかり電気代頂きますからね!ここわたしの部屋だし!なんて、冗談だけれども。そんなことを考えていたら、五条くんの視線がこっちに向いてることに気付いた。
「なに考えてんの?」
「……当てたら100万円」
「なにそれ」
五条くんはちょっとだけ表情を崩して笑った。サングラスの奥、綺麗な空色の瞳がきゅっと細められる。その顔にとにかく弱いわたしはやっぱりなんにも言えないし、強くは出れなくなってしまう。
「常世ってクリスマス嫌い?」
そう訊かれて内心すごく驚いたけれど、ここで嘘をついてもなんの意味もないことはわかりきっておたので、好きでも嫌いでもないかなあ、と正直に答えた。もうサンタさんからのプレゼントが云々なんて浮かれる歳でもないし、そもそもプレゼントをくれる充てだっていない。それにきっと、その日に五条くんはわたしの隣に居ない。
「五条くんはクリスマス好きなの?」
「いや、特には」
でしょうね。予想通りでちょっと笑ってしまった。
「わたしになんかプレゼントくれる?」
「何か欲しいものあんの?」
そんな訊き方をされるとちょっと困っちゃうなぁ。本当はなんにもいらないから隣に居てくれたらそれだけでいいのに、なんて、そんなことは絶対に言えないけれど。
「常世ってさ、あんまり言わないよね」
「なにを?」
「なにが欲しいとか、なにが好きとか嫌いとか」
だからさっきクリスマス嫌いみたいなこと言われてびっくりした、と五条くんは淡々と続ける。目線は相変わらずスマホのまま、それでも話をちゃんと聞いてくれていて嬉しくなってしまった単純なわたしは、のそのそとこたつから抜け出して五条くんの背中に抱きついた。室内とはいえこたつから抜け出て外気に晒された肌が僅かにひやりとする。寒いんだけど、どうしても、にやけるのを我慢できない。
「わたしが好きなのは、五条くんでーす」
均衡の取れた筋肉がついているお腹に腕を回して、広い背中に頬を押しつける。できる限り密着したこの状態でも五条くんはわたしに構うことなく指先を忙しなく動かしていて、スマホの中にはわたしの知らない世界が広がっていて。それでも、五条くんの視界におさまる世界の端っこにでも、わたしという人間が存在していると思えば、どこか優越を覚えて心があたたかくなるような気がするのだった。
「五条くんはクリスマスなにか欲しいものある?」
「じゃあ当てたら100万円」
「全然わからないので五条くんには特別にわたしをプレゼントします」
わたしがそう言ったら五条くんはフッと軽く笑った。鼻で笑うとも噴き出すとも違う、どんな顔をしているかはなんとなく想像できるのだけれども、やっぱりうまく説明することはできない。とりあえず、わたしの一番好きな表情、としか。
「じゃあ、遠慮なくもらおうかな」
顔だけ、ようやくこっちを見てくれた。でも、プレゼントします、なんて大見得を切ってしまって今さら恥ずかしくなってきたわたしは、真っ赤に染まっているであろう頬を見られたくなくてそっと俯いた。
「常世、ほら」
五条くんは多分、キスしようとしているんだと思う。もう一度、常世、とどこか愛おしさを滲ませたような声色でわたしの名前を呼んで、顔を上げるように促してくる。
「……もしかしてこれ、ちょっと早いクリスマスプレゼント?」
「これで足りる?」
あぁもう、なに、その甘ったるい声。