「たとえばさ、世界が終わるとしてな、今日」
先日ご所望のチーズ入り玉子焼きを箸で切り分けながら侯隆さんが口を開いた。こんな成りでさまざまなマナーや教養にうるさい彼が珍しく食事時に喋ったかと思えばそんなことを宣う。俺は奇妙な話の切り口に、無言で炊飯器の蓋を閉めながら眉をひそめた。そうすると「俺ちゃうで、悠仁に聞かれて」なんて釈明。あー、まあ、言いそうだな。あいつだったら。
「最後なにする?って」
「……あんたはなんて言ったんですか」
「ちゃうねん俺、答えられへんかってん。せやから恵に聞いてんけど」
なんでもないふうに言う。しかし侯隆さんがこんなふうに少しばかり哲学的な話題を振ってくるときは、大抵何かが引っかかっていて自分ではどうしようもない時だ。平生やかましい類かと思えば普段はこちらから話題を提供しない限り殆ど口を開かず、それどころか彼の口よりも彼の操るゲームコントローラーのほうがよっぽどやかましいかもしれない。このひとはそんな男なもので。
そういえば俺もいつだったかそんな質問をされたことがあった。絶対に言わないと口を固く閉ざしたし、そのことについてはもう、誰にも言うつもりはない。それでもまあ、
「……聞きたいですか?」
他に、ないことも、ない。箸にこびりついたチーズをこそげ取りながら、侯隆さんが怪訝そうに眉根を寄せて首を傾げる。
「なんやの、言いたいならはよ言ってやあ」
そして相変わらずの自分勝手さ。しかし悪癖の貧乏ゆすりが始まる前に答えてやらなきゃならない。ほかほかと湯気の立つ茶碗を目の前に置いてやって、テーブルの向かいに着く。自然と彼の目をじっと見つめて、すると三秒もかからずにふいと視線を逸らされて、思わず失笑。
どうしたって彼にすら言えないことがひとつやふたつはあるのだけれども、それではないからって別に、まったくの嘘ではない。こちらだって実際のところ本当の願いだ。
もしも今日で世界が終わるなら、その最後はこうやって、ふたりでメシ、食いてえなあ。
……なんて言えば、きっと可愛いくらい真っ赤になって、慌てふためき喚きだすはずだ。想像しただけで笑っちまう。