Desire.2
渋々、本当に渋々交換した連絡先が役に立つなんて。着実に確実に巻き込んでいる証拠だと痛感して自分にイライラした。及川がそういう怪異や魔女の気配を察知できるようになってしまってからは、わたしの魔力を込めたお守りと称してペンダントを押し付けているから即死ってことはないと思う。けれどあれは魔法少女ではない。つまり、魔女を撃退できない。明々白々、及川の命はわたしにかかっている。
『今後輩と一緒にいるんだけど、グリーフシードみたいなの見つけた。あとなんか変だ、周りに人がいない』
位置情報と共に送られてきたメッセージ画面を開いたままの携帯を握りしめ、わたしはひたすら足を動かした。
戦闘後、床に突き刺さったグリーフシードを抜き取りソウルジェムに近付ける。穢れを移したところで、どこからともなく現れたキュゥベえに投げると、キュゥベえはなにを言うこともなく元々魔法少女の魂だったものを背中の穴に迎え入れた。
「ごめんね
翠ちゃん、助かった……」
及川はわたしがあげたペンダントを片手に握り締めて腰を抜かしていたけれど、及川は怖がりのきらいがあるから今更だ。そんなことよりも、及川の背中に手をやりながらじっとこちらを見る男の方が気がかりだ。ああもう、本当に、及川といると碌なことがない。だから早くこの街から出ていけって言ってるのに。
「あー、紹介する、俺の後輩の国見英。国見ちゃん、この子は
最上翠ちゃん。今見たことは全部夢じゃなくて、あー……」
「見ての通り、今みたいなのを退治しながら生活してるの」
「……まほう、しょうじょ」
目が合ったことに気付いた及川が勝手に紹介を始めたくせに、現状の説明がし難いのか言い淀んでしまう。仕方なしに続きを引き継ぐように言うと、その名称が出てくると思わなくて、思わず目を見開いた。
「本当に存在したなんて、……」
「なんで、知ってるの」
無意識に声が低くなってしまった。わたしの視線が鋭く、冷たくなったのを見て及川が数度か瞬きをし、斜め後ろにいる後輩を見遣る。
「俺のいとこに、……それっぽい人がいて」
「名前は」
どもりながら紡がれた名前はわたしの知らぬものだったから、瞬時に今の会話はいらないものとして脳内から切り捨てた。魔法少女に仲間意識を感じないわけではないけれども、どうせ末路なんぞたかが知れてるし、見知らぬ他人なんて気にかける余裕もないのだ。
「……国見って言ったよね。今後一切わたしに関わらないで。命に関わるから」
なるべく嫌な印象が残るように睨めつける。怯みはしているけれど、どこか及川と似たようなものを感じた。
「でもあんたは」
「わたしのことで話すことはこれ以上ない」
「……俺、知ってる、魔法少女がどうなるか」
「え」
その言葉に及川が反応した。わたしは隠すこともなく舌打ちをする。及川に、魔法少女がどういうものかをまともに話したことは一度もない。せいぜい魔女を退治する女、それだけだ。どういう成り立ちなのかも、本体がどうなっているのかも、末路も、なにもかも。
「……このまま放っておいたら」
風船が破裂するようなそれよりも空間に響く鋭い音が鳴って、わたしの隣から細い煙がくゆる。及川が息を呑んだ。構えた銃を肩に担ぐように持ち直して再度ふたりを睨みつける。
「帰って、今すぐ。今後一切わたしに関わらないで、及川も」
「えっ」
「アンタには何回も言ってるでしょ!」
及川が間抜けな声をあげるのを、怒鳴って一蹴する。なんでこいつっていちいち自分から巻き込まれにくるんだろう。本当に、迷惑だ。死ぬかもしれないっていうのに、このお人好し。ゆっくり立ち上がった二人はこちらを気にするようにちらちらと振り返りながら帰っていった。あの大馬鹿、わたしの名前なんて教えなくてよかったのに。
「君って本当に素直じゃないね」
「……帰って。イライラしてるの」
突然、なんの気配もなく現れたキュゥベえに銃を突きつける。ただでさえイライラしているのに、コイツは人の神経を逆撫でするから、さっさと帰りたいのに。そもそもわたしは退治終わりで疲れてるんだ。
「巻き込みたくないからって言えばいいじゃないか。君のそのプライドが高すぎるとこ、理解に苦しむよ」
引き金を迷いなく引く。なにかを撃ち抜いた音はしたけれど、不愉快な声は止まない。
「国見くん、だっけ?及川くんみたいに大切なものにしたくないんだろう、君。それと及川くん君に好意があるみたいだけど――」
もう一発撃った。漸く声は止んだ。
「全く、話にもならない。まあ今日は特に言う事もないから帰るとするよ」
ないならなんで来たんだ、おちょくりに来ただけだ。ああもう本当に、本当にイライラする。なによりも、一番、自分に。
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