Desire.1



「……及川さぁ、気分悪くなるならついてこなきゃいいじゃん。何回も言ってるけど」
「うっ、おぇ、け、けどさ……」

 わたしは呆れ顔を隠しもせず、及川にもう何度目かわからない警告をする。ひょんなことでわたしが魔法少女であることがバレてしまってからこっち、及川はわたしが魔女討伐に赴くたびに毎回ついて来るのだ。知らせてもいないのに。

「庇いながら戦うこっちの身にもなってよ。あと目の前で真っ青な顔されてもさぁ」
「ご、ごめん……」

 涙目で真っ青になりながら謝ってくるけれど、やめる気はないんだろう。及川はそういう男だ。頼んでもいないのに女の子1人じゃ危険だからなんてそれらしいことを言っているけれど、そもそもわたしは第二次成長期をとうに過ぎていて女の子という年でもないし(見た目が変わらないから幼く見えるかもしれないが、二十代の魔法少女なんてそうそういない)、危険なのはわたしよりもどちらかといえば及川の方だ。
 わたしは痛みと死が直結しない身体であり、またキュゥベえに願いを叶えてもらった時点でいつ死んでも構わない身だ。及川なんて引きずって高速道路のど真ん中にほっぽれば2秒で即死んでしまうような弱い人間、どちらが危ないかなんて幼稚園児でもわかりそうなものなのに、及川は嘔吐し魔法少女の世界に絶望しながらもやめようとはしない。この間の幻影を見せる魔女の時なんかは特に酷かった。号泣しながら嘔吐し、胃の中の物がなくなると今度は胃液を吐き出し、挙句に気絶。そのまま野垂れ死なれても面倒なので、わたしよりもゆうに30センチは身長の高い体躯の身体を背負って帰った。

「……及川さぁ」
「俺、一応年上なんだけど……、なにさ」
「ほんとにいい加減やめなよ。わたしに関わってると死ぬよ。冗談じゃない、言葉の通り」

 自分の死期がわかるという話をわたしは今まで信じてこなかったけれど、どうやら本当らしい。
 ほむらから真実を聞いていたわたしは元から魔法少女なんてものに期待なんてしていなかった、けれど、そろそろ限界だ。魔法少女の魂だったグリーフシードで何回ソウルジェムを浄化しても、じりじりと磨り減っていくものがある。キュゥベえの言う”因果”が鎖となってわたしに何重にも巻きついていくのを実感しているし、なにより、及川と出会ってしまった。最初はただの知り合いの知り合いだったのに。及川を死なせたくないと思ってしまった。及川になにかあったら、わたしはきっと魔女になってしまう。及川と共に生きれないことにも正直絶望に近いものを抱き始めていて、こんなことになるなら出会いたくなんてなかった。
 そのうちわたしは魔女になり、及川を殺してしまうだろう。もう人並みに何かを願うことなんてできないわたしが、せめて魔女になる前に引き離して、どうかもうこちらの世界に関わることがないように生きてほしいと願うほかない。キュゥベえには及川の存在はとっくにバレているけれども、奴は恐らく男に手出しはしないだろう。
 及川と出会ってから、とっくの昔に捨てた願望だとか、人間らしさだとか、そういうのがふつふつと湧き上がってきてしまう。

「わたしの正体を誰かにバラしてもいいから、もう関わらないで。お願いだから」

 及川を死なせたくない。これ以上巻き込みたくない。そんなこと、死んでも言えやしないけれど。
 及川は一瞬考えるような顔をして、それからへらりとゆるく笑って、口を開いた。

「やだよ。好きな子放っておけないもん」