愛のみちびき



 例えば俺じゃない、銀髪のアイツだったらきっとサラッと言ってのけるんだろうな。屈託のない笑顔で、だけどちょっと照れながら。プリン頭のアイツは、普段は口下手だけど大事なことだから真っ直ぐに男らしく伝えるんだろうな。目は合わせないかもしれないけど、そこがまた、らしいよなって、そう思う。目の前にいる奴は心の中で何度もセリフを練習して、本番では絶対カッコ良く決めてくるんだよ。

「で?いつすんの?」

 夜久とふたりでメシ食うの久々だなって俺は投げかけたはずだったのに、返ってきた言葉はそれだった。今日俺が誘っただいたいの意図を既に把握してるから、さすがやっくんって嬉しいような、そんな分かりやすいか?と複雑な気持ちになる。

「え?」
「とぼけんなよ。鈴子ちゃんと結婚すんだろ?」

 夜久はテーブルに頬杖を突いて俺を見る。つい言葉に詰まったのは、夜久の中で勝手に話が進んでいて驚いたからだった。本当はまだプロポーズ出来ていないことを打ち明けたかったんだけど……いやいや違う。ビビってるわけじゃない、断じて。俺が言葉を濁しつつ恐るおそる本音を話せば、夜久は一瞬呆れたように目を丸くして、すぐに表情を崩してから声に出して笑い始めた。

「マジ笑い事じゃないって!俺は真剣に悩んでんの!」
「そんなの、結婚しようって言ったらいいだろ」
「他人事!いつ?どこで?どんなテンションで?」
「それは自分でプラン考えろよ。黒尾そういうの好きじゃん」
「うーん」
「指輪はあれからもう買ったのか?」
「あれから?」
「だって一時期ずっとスマホで指輪見てたじゃん」
「何で知ってんだよ!」
「たまたま見えたんだよ。海とあやしいよなって話したから海も気付いてる」

 そんな、ウソだろ。驚いて言葉も出ずただ口をパクパクさせる俺を見て、夜久はまた笑ってた。いや事実だし指輪だってあれから買ったし、いいんだけど、誰にも何にも話してないのに気付かれてるのはいったい何なんだ。もっと落ち着いて周りを見ろ、俺。

「俺は良いと思うよ、鈴子ちゃん。黒尾にお似合いだと思う」
「……俺もそう思う」
「例えばどういうとこが好きなわけ?」
「……んー、俺のこと俺以上に考えてくれてる、ところとか」
「急に惚気んなよ」
「夜っ久んが聞いてきたんでしょうが!」
「それ伝えてプロポーズしたらいいじゃん。何怖がってんの?」
「……俺、ちゃんと鈴子のこと幸せにできるのかなって」

 至って真剣に悩んで、迷って考えて、どんなに頭を動かしても答えが出なかったから相談したのに、そう言った途端に夜久は飲んでいたお茶を吹き出した。え、汚ぇし何でだよ!

「それはどう考えても黒尾の頑張り次第じゃん!」
「いや、そりゃそうだろうけど!」
「そう思ってんなら、もう言うだけだろ。早くしないとリエーフに取られんぞ」
「何でリエーフ?」
「前に黒尾のスマホ勝手に開いてアルバムの鈴子ちゃん見て、にやにやしながらかわいいって言ってたから」
「ツッコむとこ多すぎだろ!」
「まあとにかく言った方がいいんじゃないか?鈴子ちゃんも待ってるだろうし」
鈴子、待ってくれてんのかなあ。結婚願望とかあんのかなあ」
「え、そんな話全然しないわけ?」
「多分、鈴子が俺に気遣ってるから、そういう話はほとんどしたことねえ」
「めちゃくちゃ良い彼女じゃん!」
「そうなんだよ!」

 じゃあ早く伝えろよ!夜久がそう言ったところで、夜久のスマホが鳴って、相談会はお開きになった。頑張れよ!明日報告よろしく!と笑って帰って行った夜久は俺の背中を押すようにふたり分の食事代を払ってくれた。次回とか、夜久が何かにつまずいたり悩んだときには俺が相談に乗ってメシ代奢ろう。鈴子に今から帰ると連絡をしてから、帰路を辿る。いろんなことを、考えながら。
 部屋に置いていたら掃除をする鈴子に見つかるかもしれないから、とカバンの奥に隠していた小さな四角い箱を確認、ポケットに移してから深呼吸。焦る気持ちを抑えて、自宅のドアの前でもう一度、深呼吸。ただいま、とドアを開けたら鈴子が出迎えに来てくれる。おかえり、と柔い笑顔を見たら、つい抱きしめていた。

「夜久くんと久々のごはん楽しかった?」
「うん」
「よかった!お腹いっぱい?何か軽く食べる?」
「……鈴子
「なに?」
「すっごい、好きだよ」
「え、なに。恥ずかしい」

 そう言いつつ俺の背中に腕を回してくれる。すると、くっついたせいで違和感に気付いたみたいだった。

「あれ?鉄朗ズボンのポケットに何か入れてる?」

 本当は帰り道、たくさん考えた。オシャレなレストランでとか、夜景をバックにとか。だって一生に一度のこと、だし。

「……鈴子に、プレゼント」
「わたしに?」

 俺のポケットに手を入れて、箱を取り出した。中身が何かはすぐ分かったみたいで、すごくビックリしてる。ゆっくりゆっくりとリボンをほどいていく鈴子の指先は小さく震えてた。もっとムードが欲しかったって、いきなり過ぎるって怒られるだろうか。それでも、どうか笑って欲しい。

「俺と結婚してください」

 空気が張り詰めたような、そんな空間で、確かに伝えた。勢いでも何でも、ため込んでいた思いを口にしてしまえばもう止まれなかった。鈴子を、俺が幸せにしたいこと、できるように一生懸命頑張ること。ふたりで一緒に生きていきたいこと。もう、我慢しなくていいこと。

「……いいの?わたしで」
鈴子がいい」

 お願いします。そう言って微笑んだ鈴子の瞳には涙が滲んでいた。一気に安心した俺までちょっと泣いてしまったことも、きっといつか、未来で笑って話せるんだろう。ずっと、ずっと一緒に居よう。