汗ばんだ額を認識しながら、まだ肌に触れさせていないタオルを指先で弄びながらぼんやりとベンチに腰かけていた。
大きな駅の、すべてが見渡せるような気になる場所で。
「お疲れさん」
「っあー最低」
「なんでや、お前の好きなやつやぞ」
頬に当てられたコーラとわたしがいつも飲むお茶。駅の中か、ベンチより奥にしかない自販機でわざわざ買ってきたらしいそれはひどく汗をかいていて、頬が濡れ、膝にまで滴り落ちた。
「ほら、濡れてる」
「そんなんすぐ乾くやろ」
「貸して」
持っていたタオルでぐるり、と彼が持つ飲み物の水分を拭き取ってから手渡すと、物珍しげな視線が無遠慮に刺さる。
「なに」
「お前、そういうとこあったんやな」
「感心した?」
「あー、ってか、まだ知らんこと多いなって思った」
「わたしは一生侑のこと分からないと思うわ」
「うそやろ」
さっそくペットボトルに口をつけ、一気に二割ほど飲み干した侑は開口一番言う。
「ま、どっちかが死ぬまで一緒におったらなんとなく分かるか」
わたしの表情も言葉も見ることはなく、彼は歩いていく。わたしはただ濡れたタオルとペットボトルを掴んだまま立ち尽くした。
「はよ来い」
侑は笑う、太陽より眩しく、全部が大したことないみたいに。
いや、本当に全部が大したことないのか。
着ているTシャツは変なデザインのプリントが背中側にあって、なのにどうせどや顔で歩いている彼に追い付くために、わたしは駆け出した。