テイクミーアウト



 え、いま一瞬すげえ顔したよ。そりゃあ俺も驚いたけど、の方が絶対オーバーリアクションだった。特に顔が。扉の近くで鉢合わせて固まったふたりの間に流れる入店音がちょっと間抜けに聞こえた。

「うそ!一郎くんだ!」
「ばか!声でけえから!え、何か買い物?」

 店の入り口から邪魔にならないようにと、とりあえずすぐ横の雑誌売り場へと避難して彼女に訊いてみる。俺の家から最寄りのローソンには、ここ最近よく来ている。久々にが家に来るって言うから甘いものでも買いに行こうと思い立ったのが三十分くらい前の話だ。が俺の家に着く予定の時間までは、あと一時間はあったはずだけど。

「久しぶりに一郎くんの家に行くからなにか手土産でも買おうかなって!」
「8時は過ぎるって言ってなかったか?仕事は?」

 店内にある時計を見るとまだ7時半にもなってない。久々だから嬉しくて!はりきっちゃった!とは笑うけれど、質問にちゃんと答えていないし、もしかして三十分以上コンビニで時間を潰すつもりだったんだろうか。絶対それ店員にあだ名付けられるパターンだよな。

「ほら、もう甘いの買ったから」

 手に提げていたレジ袋を持ち上げたら、彼女の表情がさらにぱあっと明るくなったのが分かった。うっわ、かわいい。ちょっと嬉しい。ドヤァ。

「でもまだ8時にもなってないのに行っていいの?」
「ホテルのチェックインか」

 そんな話をしながらふたり並んでローソンを出た。気温も肌に触れる風も心地よくて、夏が終わっていくんだなってしみじみ思う。会っていなかった間にどんなことをしていたかとか、どんな思いでいたかとか、そういうことを、とはあんまり話したことがない。だいたい話すのは今思ったこととか、せいぜい今日あったことばかりだ。

「来週からおでん70円セールなんだって。絶対お鍋持って買いに来よう」
「いやそんな食わないって」
「え、一緒に食べるの?」
「なにその言い方」
「わたしあのローソンでバイトしようかな。そしたら一郎くんに毎日会えるもん」
「毎日は行かねぇよ」
「わたしがいるんだよ?来てよ!」
「逆にセブン行くわ」
「一郎くんのツンデレ!」
「いやツンデレでもなくね?」

 取るに足らない、と形容するのが正しいような、本当にどうでもいい内容ばかり。けれどだらだらと続く会話は終わりが見えなくて、なんとなく、口角がゆるく上がりっぱなしな気がして。こういう些細なことを気にし始めたら、自分はにハマっているとつくづく思う。もちろん彼女は無意識でしかなくて、こういうのを惚れた弱みって言うんだろうけど。そんで、こんなふうに思ったことは絶対に言ってやらないけど。

「そういえば、一郎くんなに買ったの?ケーキ?」

 そう言って興味津々な様子でレジ袋の中を覗き込むから、たった今ローソンで買ったさつまいものモンブランを見せるとの目がきらきらと輝いた。

「これ絶対好きだろ」
「え!おいしそう!」

 満面の笑みで頷く彼女を見て単純だなって思うし、それが嬉しいと感じている俺も心から単純だなって思う。名前を呼んで、街灯がない暗がりへ手を引いて、にキスしたのは多分、涼しくなってきたせいだ。ひと肌恋しい季節になってきたからだ、って、ひたすら自分に言い聞かせる。

「え、一郎くんどうしたの?」
「……いや、気の迷い」
「言い方!」

 はぱちぱちと目を瞬かせて驚いていたけども、すぐにまた笑って、俺の服の裾を引いた。

「……好き?」
「なに急に」
「訊きたくなっただけ!」

 好きだって、素直に言ってあげないこともない。たまには、今日くらいは。こんな夜くらいは。

「……あのさ」
「あ、一郎くんゴム買った?」
ほんとにぶち壊すよな」

 来週一緒におでん買いに行こう、と言ったら彼女は喜ぶだろうか。そんなことを脳内でつらつらと考えながら、指を絡めるようにして手を繋いでみた。

「やっぱりツンデレ!」
「ムード壊す天才かよ」

 そうこう言いながらも結局、が笑っていれば楽しいし、それだけでいい、と思ってしまう俺も、だいぶ彼女にやられてるらしい。