もう少しだけって手を伸ばす



 ギターを弾く姿をじいっと見つめていると、なにがそんなに面白いの、と尋ねられた。
 当たり前だけれど、の考え方は自分とは全く違う。どう違うかと言えば説明し辛いし、獄さんが言うには、自分との考え方は似ているらしい。でも、酷似と同一は似ているようで全く違う。そこに致命的な程のズレが生じる。それが面白い。自分と同じ部分も感じるのだけれど、そこはこう返すのか、といつも感心する。取材先に置いてある雑誌にが写っているとついつい手を伸ばしてしまうし、インタビュアーがしっかりしているものであると、特別面白い。演技について、歌について、が語る文字を見るたびに、新しい"酷似しているけれど同一ではないズレ"を感じさせられて、心臓がばくばくと脈を打って、以前空却さんに「何ニヤけてんだよ十四」と一度だけからかわれた。

「どうやって曲作ってるのか興味あって」
「てきとー」
「適当に作ったものを世間に出すんすか?」
「適当に出てきたメロディを繋げて、試しにギターとかで音を作るの、んで、うまくいきそうだったら世間にお披露目」

 最近なかなか売れないけどね、と自嘲気味に笑った姿も実にさまになっていて、自分は反射的に嘘つき、と呟いていた。はアイドルだとか女優だとか歌手だとか、ひとつのレッテルに囚われず、一個人として生きていた。だから人気がある。自嘲気味な笑みが言う程、彼女が出たもの、出したものの評判は悪くない。寧ろ、酷く良い。毎回毎回良い。良すぎてすこしも腹が立たないし、誰も嫉妬をしない。ああ、彼女はなんのジャンルでもない、というジャンルなんだと思わされて、うんそうだ、と全員とは言わないけれど九割くらいは納得させられる力を持っている。

「触れるのは息をするより容易い筈なのに、ふれーるーのはー……あ、パクんないでよ」
「自分がそんな歌詞書くわけないんだからすぐばれるっすよぉ」
「そうだよねえ、十四はなんていうか、もっと詩的だもんね、わたしは絶対書けない、浮かばないもん全然」
「自分もみたいな歌詞浮かばないっす」
「……なのーにーどうしてーできないのー」
「無視しないでくださいよぉ」

 女らしくないようなさばさばとした性格とは裏腹に、女性らしい文字で歌詞とコードをざっくりと書いていく。自分が見ているのを気にしてか、「あ、文字のバランスすっごい悪い。まあいっか」と勝手に自己完結している。自分はその独り言すらも耳に通して、曲が作られていく工程をただ黙って眺めていた。特徴的な、強くて張りのある、そして蓮っ葉な可愛らしさを感じさせる声と雰囲気。
 歌によってその声は、多種多彩の色に塗り分けられていく。涙がぼろぼろと落ちる色、いとおしくてしょうがない幼い色、いたずらや茶目っ気を感じさせる少しエロティックな色。気が付いたら身についていたというきちんとした発声法、歌によっては本当に崩れ落ちてしまいそうになるような心の入れ方、強弱のつけ方も秀逸過ぎる。それらは、きっとに身につきたいと思ったのだろう。が身につけたのではない、のそういう魅力が歌の才能をも引き寄せたのだ。
 こんなことを考えていると知れたらからかわれるのがオチなので、部屋に響く音を聞いて、次にこれをCDとして手に取る日はいつなのだろうと考えた。

「レコーディングの時の癖ってあります?」
「えー……、無い。コードをくるくるする、くらいかな、曲にもよるけど。十四は」
のその癖、獄さんと一緒。……自分は、なんか絵とか書いてます」
「なにそれーなに書くの」
「ドラえ」
「あ、ちょっと待って、歌詞思いついた」

 んんんーとメロディと合わせながら歌詞を書いていく。気が付いたら文字のバランスも気にしなくなっていた。ただ、自分の手の速度が脳に追いついていないのか、辛うじて読める程度の文字がメロディに乗ってどんどんと綴られていく。
 そのマイペースさが心地良くて、自分はゆっくりと息を吐く。綴られる文字をゆっくりと読み解こうとしてやめた。すぐに彼女が完成形を披露してくれるだろうから。あまりにも大切なものは、急いで手に取るよりもきちんとした形になってから。その方がきっと、楽しいし嬉しいし幸福だ。こんな考え方を自分に教えてくれたのもなのだと思い出して、目の前で弦を爪弾く姿を見て、自分はのいちファンなんじゃないかと一人で笑ってしまった。