Oh My Girl



「けほ、」

 あーしんどいな、なんで季節の変わり目ってこう、すぐ風邪引いちゃうんだろ。しかもそれが年に四回もあるわけだから、まじ日本の四季が正しくあることを呪わせてほしい。しかも過ごしやすい気候の春は花粉だの梅雨だの過ごしにくい日のほうが絶対多いし、夏はくそ暑いしダルいし、秋は秒で終わるし、冬めっちゃ寒いし。なにこれ四季ある意味あんの?は?ちゃんと三ヶ月ずつにしてくれません?いやむしろ夏と冬は二ヶ月ずつとかでも全然いいよ?わたし花粉症じゃないから春長くてもいいし。いやそれだと花粉症ひっどい友達がしぬからダメか。てか夏から秋になるときに引いた風邪が治ったと思ったら秋から冬になりやがるじゃん。万年風邪じゃん。ばかじゃん。どんだけちゃんと体調管理してても季節の変わり目って絶対風邪引くんだけどなんなの?呪いなの?わたし季節に嫌われてんの?は?泣くぞ。

「……あたまいた……」

 風邪引いたからってお見舞いに来てくれるようなイケメン幼なじみとかいないし、ひとり暮らしだから誰もいないし、病院行く気力もない。仕事休んだからってイケメンの同僚が様子見に来てくれるわけでもないし、つーかイケメンの彼氏もいないし、は〜〜〜わたしの周りにイケメンいないのつら〜〜〜!
 てかこういう身体がしぬほどダルいときに限って頭めちゃくちゃ働くのってなんでなの?寝たいのに寝られないからすごいやだ。しかも頭働いてるわりに四季呪うのとイケメンいないのしか頭のなかぐるぐるしてないんだけど、あれつまりこれって頭働いてないんじゃない?もしかしてこれが熱に浮かされるとかいうやつでは?違う?まあなんでもいいか、四季ムカつくのとイケメンいないのは事実だもんな。

「あ〜〜〜……ゼリー食べたい……」

 こういうとき少女漫画とかだとイケメンがさあ、あ、またイケメンの話になるんですけど、イケメンがポカリとかゼリーとか買ってきてくれてさあ、「ちょっと、風邪うつっちゃうよ……!」って止めてんのに勝手に部屋んなか入ってきて看病してくれたりするんだよなあ〜。へったくそなお粥とか作ってくれてさあ、「味うす、」って笑ったら恥ずかしそうに拗ねたりするんだよイケメンがさあ。そんで「もう帰りなよ。ほんとにうつっちゃうよ?」って追い出そうとしたら「……うつせば?」とか言ってチューしちゃって結局次の日イケメンが風邪でダウンすんだよなあ〜〜〜!つまり知り合いにイケメンいんの超羨ましいって話で〜〜〜す!

「……頭おかしくなってきた……水飲も……」

 あ〜起き上がるだけで目眩するしんど……てか水一本しかないんですけど……あ〜そうだ昨日ダルくて買い物すんのやめたんだった……今日こんななるなら昨日しとくんだった……明日やろうは馬鹿野郎だもんな……さすが山P、いいこと言うわ……しゃあないコンビニ行くか……どちゃくそ寒いから厚着してこ……季節外れ甚だしいけどマフラーしてこ……こんなカッコ見られたくないから誰にも会いませんように……
 とか思ってたら家出た瞬間お隣さんと邂逅した〜〜〜!ハッズ!こんな完全防備なとこ見られんのハッズ!帽子にマスクにマフラーに厚手のブルゾンにスウェットはさすがにハッズ!無理!しねる!あとお隣さん思った以上にイケメンでしねる!信じらんねえなにこいつみたいな顔されてる!しねる!ほらもうだからひとり暮らしの風邪って嫌なんだよな!頭ん中はこんなに混乱して暴れまくってんのに表情筋ぴくりとも働かないのはありがたいけど!あっこれは別にひとり暮らし関係ねえな!

「……こ、こんにちは」
「…………んに……わ」
「え?」

 アッやばい独り言ばっかだったから他人に聞かせる音量で声出なかったハッズ!恥ずかし!聞き返されたんだけど!わりと無理!

「ん゛ん!……こ、こんにちは……すみません、怪しくて」
「あ、いえ……もしかして風邪、っすか?」
「あ、はは、はい……ちょっと」
「そうなんすか。大丈夫っすか?」
「え?ああはい、大丈夫です」
「これから病院へ?」
「いえ、ちょっと買い物に……」
「買い物?大丈夫なんすか?体調悪いのに」
「へ、あ、ああ、はい。たぶん」
「そうっすか……」

 なんかわりとグイグイくるなこのお隣さん???つか立ち話してるのもしんどいんで解放して?もう行っていいかな?

「あのすいません、わたしそろそろ……」
「あ、そうっすよね。すいません引き止めて……あ、そうだ、スポーツドリンクとかゼリーとかゼリー飲料とか、自分いつも余分にストックしてて!もしよかったらあげますよ、買いに行くものがそれだったら、わざわざ行かなくていいし!」
「へ!?いやでも、悪いですし」
「なに買いに行かれるんです?」
「え、水……とか、ゼリー……とか……」
「じゃあちょうどいいっすよね!今持って来るっす!あ、でもさん身体しんどいっすよね、部屋入ってていいっすよ!」
「え!?あのちょっと、!」
「用意できたらインターホン押しますから!」
「えっ、ちょ、」

 え、ええ〜〜〜!!!なんだこの話聞かないイケメン〜〜〜!!!超爽やかな笑顔でドア閉められたんですけど〜〜〜!!!わたし了承してねえから〜〜〜!!!聞いて〜〜〜!!?
 あ、やばいドッと疲れが……しんど……もういいやイケメンがいろいろ世話してくれる(?)って言うんだからそうしよ……てかスポドリとかゼリー飲料とかストックしてるってあの人普段なにしてんの?こんな真っ昼間に帰ってきたのも謎だし。なに?スポーツ選手?ただの趣味?あ、鍛えてる系か?それにしては身体ほっそいし髪の毛もなんかすげえバチバチに金髪のメッシュ入ってたけど。ゼリー飲料は毎朝10秒チャージしてんのかもしんないな、スポドリとゼリーは謎だけど。好きなのかな、うん好きなんだな。世話(?)すんのも。もうそういうことにしとこ。考えんのすらダルい。あとどうせ玄関開けなきゃなんないからベッドまで行くのもダルい。床でいいかな。

さーん!持ってきましたよー!」
「いや待って!?インターホンと同時にドア開けんのはさすがにやばくない!?」
「あっ、ちょっと!もしかして床に座って待ってたんすか!?ダメっすよ、身体冷えますから!こんな厚着してるってことは寒いんでしょ?ちゃんと布団入ってください!とりあえずこれと、あとゼリーすぐ食べます?食べるのしんどかったらゼリー飲料もありますけど、そっちにしますか?」
「待って待って待ってなんで上がってんの!?えっなに!?なんなの!?」

 コワイ!こいつコワイ!イケメンだけどコワイ!めっちゃ普通に冷蔵庫開けてるしゼリーとか詰め込んでるし、てかスポドリとゼリー飲料持たされたんだけど!あとぐるぐる巻きにしてたマフラー取られたし帽子も脱がされたし!なんで!?すごい!なんで普通にできんの!?あれわたしたち友達なんだっけ!?わけわかんなくなってきた!やばい!頭痛い!

「あのなんか頭痛くなってきたんですけど」
「えっ大丈夫っすか!?もしかして熱上がったとか?体温計あります?あ、あとちゃんと布団入ってくださいね!寝室こっちっすか?」
「待ってほんとに待って、なんでわたし手繋がれてんの?え?わたしら友達?」
「やだな、お隣さんのよしみですよ。それにほら、さん足ふらついてますし」
「いやたぶんあなたのせいなんだよなこれ」
「自分っすか?え、なんで?」
「なんで!?!?すげえな!?」
「あ、体温計ありました!熱測ってください!測れます?自分やります?」
「いや自分でできますんでお構いなく!?!?」

 「ならよかった、キッチン借りますね!」じゃねえんだよな!?なんでキッチン借りんの?えってか帰ろう?え?帰らないの?なんで?やばい意味わかんない、熱も確実に上がってるし。あとなんか身体が勝手に言うこと聞いてベッドに入ろうとしてるんですけど!?その前に他人が部屋にいるんだよね!帰ってもらってから寝ようよわたしの身体!ねえ!ダルさには勝てないのかな!?あと変な隣人にも!?

「あ〜やっぱり熱結構高いっすね。これレトルトのお粥なんですけど食べられます?市販の風邪薬も持ってきたんでよかったら」
「あ、ありがとうございます……?」
「いえ、当然のことをしたまでです!」
「いや普通の人は見ず知らずのお隣さんちに勝手に上がったりしないと思います……」
「そうっすか?でもさんしんどそうだったんで、ほっとけなくて」
「えっ」
「風邪のときにひとりって心細いじゃないすか。だから少しでも気を紛らわせてあげたいなって……余計なお世話だとは思ったんですけどね。すみません」

 トゥンク……じゃねーからわたし!!!イケメンだからってときめいてんじゃねーぞわたし!!!あとお粥めちゃくちゃに味薄いぞ!レトルトってこんなんなの!?はじめて食べたわ!玉子らしきものが入ってんのに全然味しないんだけどなにこれ!?塩ください!!!
 って思ってんのに口が勝手に「……おいしいです」とか言ってんの結構やばい〜〜〜!わたし濃いめの味付けが好きなのでこれはお世辞にもおいしくない〜〜〜!完全にイケメンにやられている……毒されてるぞわたし……!「そうっすか?よかったっす!」とか爽やかに笑われたもんだから心臓がうるせ〜〜〜イケメンへの耐性なさすぎマン〜〜〜!知ってたけどわたしってばかだな……イケメンの顔面に弱すぎるんだよな……
 てか他人に献身的なイケメンとか結構やばくないです?しかもただのお隣さんにだよ?挨拶も数えるくらいしかしたことないのにだよ?わたしに至ってはこの人の名前すら知らないのにこの人わたしの名前知ってんのやばくない?イケメンにわたしがわたしとして認識されてんの結構やばいな?えってか冷静に考えてわたしの部屋に見ず知らずのイケメンがいるのやばくない?

「あのわたしもう大丈夫なのでお帰りいただいても、!」
「えっあ、そうすか……?」
「すいませんここまでしてもらって失礼でほんとすいません!でもあの、なんていうかもうほんとに大丈夫なので!」
「……そうすか、じゃああの、もしなんかあれば言ってください。力になります」
「あ、りがとう、ございます」
「鍵閉められますか?よかったら自分が外から閉めて、郵便受けに入れますけど」
「いえそこまでしてもらうわけには、」
「そうすか?……じゃあ失礼します、ね」
「はい、あの、ほんとなにからなにまでありがとうございました!助かりました」
「いえ、気にしないでください」
「えっと、お隣ですけど……お、お気をつけて」
「あはは、はい!ありがとうございます」

 コワイとか思ってごめんなお隣さん、いやお隣のお兄さん。めっちゃいい男だよお兄さん。笑顔も態度も超絶爽やかだし。話さえ聞いてくれればタイプなんじゃないかな、何様だよって感じだけど。あっでももう他人の世話とかやんないほうがいいと思う、わたしですら引いたから。まじで。いや親切だよ?親切だけどさあ!ちょっと親切がすぎるかなって!ね!?まあ思ってたよりあっさり帰ってくれるのはありがたいけど。ちょっと子犬っぽさもある爽やか笑顔にときめいたりもしたし。イケメンって罪。つまりなんていうか、いろいろひっくるめてありがとうって感じかな!身の回りのお世話してくれるイケメンとかそれがたとえ一瞬でもありがたみしか感じないし(いろんな意味で)、優しいイケメンがいるだけで世界って平和になりそうじゃん?もう四季呪うとか言ってた自分がはるか過去の人って感じするし。なんか結果的に浄化された気分。呪うとか言ってごめんな四季。まあ季節の変わり目だけは許さないけど。毎度毎度風邪引かされてるし。体調管理の甘さとかそういうんじゃないと思うし、たぶんだけど。
 話ズレたけど、お隣のお兄さんのおかげでいつもより早く風邪治りそうだし結果オーライかな!現在進行形でお兄さんのせいで熱上がってるけどそれはまあよしとする!

「じゃあ自分、帰りますね」
「はい。ほんとにありがとうございました」
「いえ。……あ、そうだ」
「?」
「さっき言ってた、普通の人は見ず知らずのお隣さんちに上がったりしないってやつ」
「ああはい」
さんだからっすよ」
「、は」
さんと見ず知らずのお隣さんじゃなくなるにはどうすればいいのかなってずっと思ってたんすけど、今日がいい機会だったんで」
「は、……は?え、ちょっと意味がよく、」
「自分、四十物十四っていいます。これからよろしくお願いしますね!じゃあお大事に!」
「いやだから聞いて!?!?」

 お兄さん最後まで話噛み合わねーな!?!?
 とりあえず意味わかんないんで、聞かなかったことにしときますね???