ジャガー



 連続するピンポンの呼び出しに答えて、寝ぼけてたもんだから迂闊にもあっさりドアを開けてしまった。そこには見慣れない髪型の、見慣れた人の姿。
 切ったの、とキリエが以前までは腰の近くまでたっぷりとあった筈の髪が短く散らばった頭を指差す。彼女が敬愛する大叔母のようだと憧れ続けてきた透けた銀髪の、マッシュボブ。絶対似合わないと言ってきたけど思った以上にその髪型はキリエにぴったりで。銀色の髪に金色の目がきらきら、きらきらと光を反射して輝いて、起き抜けの眼にはほんのすこし厳しかった。眩しい。

「似合ってる、すげえ」
「そう思う?そうよね、やっぱり男前はなんでも似合ってしまうから」
「自分で言うのかよ、それ、つーか男前ってなんだ」
「いいでしょ、べつに」

 即興の鼻歌をふんふんも奏でてキリエはくるりと一回転してみせる。すっかり上機嫌だ。わかりやすい。ほえほえと顔を緩ませてるキリエは生まれたての赤ちゃんみたい。ふにゃふにゃしてる。

「シリウスも、銀髪にしてみたら?」
「銀髪は遠慮しとく、つーかそれ、地肌痛まねえ?」
「痛まないわよ、魔法だもの。あ、でも、お姉ちゃんにね、ちょっと怒られちゃった。せっかく綺麗に伸ばしてきたのにーって」
「ばーか」

 暫く色、そのままにすんのか?と訊いたら、たぶんすぐ戻すよ、だって黒のほうが落ち着くんだもん、シリウスとおそろいだしとキリエが俺に抱きついた。ラッキー。

「今日さ、家泊まってく?」
「あらシリウスったら優しい!黒髪ロングじゃない私なんて抱けねえって言ってたのは誰!」
「気ィ変わった」
「それを都合がいいというのだよ、シリウスくん」
「ははっ、悪い悪い」

 猫がやるみたいにキリエが俺の首に鼻先を擦り付けて、肩を甘噛みした。本当に今日の彼女は上機嫌。まぁ、甘えてくるのはいつものことだけど。
 短くなったふわふわと細くてやわらかい髪がくすぐったいところに擦り寄せられてなんとも言えないこそばゆさに変わる。

「くすぐってえ」
「ふふ、我慢しなさいな、これくらい」

 これからいちゃいちゃするときにはこんなことも気にしなきゃいけなくなるのかと、少しこそばゆさを感じた。なんだかはずかしい。
 キリエとラブラブするまでには、あんまりにもたくさんの障壁があるから困る。ま、そんなところも楽しんでるんだけど。