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刃こぼれのひどい剣



キリエ

 午前四時を回ろうとしていた。キリエは日付が変わる前から、談話室のソファの上で眠りこけている。いつものように気を使い、リーマスがそっとブランケットをかけてやったのが、午前一時三十分のことだった。それからもキリエが目を覚ますことはない。すっかり照明の落ちたその部屋、点いたままの暖炉の火だけが煌々と照っている。珍しく一番に起き出したジェームズが彼女を見つけた時も、キリエの小さな身体は、ぴくりともしなかった。

「ねえキリエ、風邪を引いてしまうから、部屋で寝るんだ」

 静かに肩をゆする。

キリエ、起きて、ちゃんとベッドに行きなよ」

 揺れをすこし強くしたところで、キリエはようやくひとつ身じろぎをした。「キリエ」ジェームズが咎めるように言うと、「わかってるわ」驚くほど素直に上体を起こす。

 ジェームズに世話を焼かれることが、キリエは少々苦手だ。
 幼いころずっと一緒にいた、キリエの大好きな友人を、まるでひとときのあいだにキリエから奪ってしまった。そして今や自分の所有物だとでも言いたげな顔をしている、そんなジェームズを、キリエは許せないでいる。たしかに彼が聡明なことも、ゆるがないリーダーシップがすばらしいことも知っていた。そしてキリエにとって彼は悪戯仕掛人のリーダー的存在である前に、純血にも関わらず自由に将来を選択して生きることのできる人間だった。マグル生まれのリリーを懸想していることからもそれは伺えるが、リリーに懸想するもうひとりの人間であるスネイプと違うのは、ジェームズの求愛行動がおおっぴらなことだ。学校を卒業したら否が応でもあのナイトレイの家に戻らなくてはいけない自分とは違って彼は自由で、それが羨ましいと思うことは両手を使っても足りなくなってしまった。
 勿論実家が嫌いなわけではない。歳の離れた二人の兄はキリエにとても優しくしてくれるし、従者の兄が仕える主人は小さいながらもとても聡明な方だった。今は向こうの諸事情で暫く会えていないけれど、じきにまた相間見えることになるだろう。
 私情を切り離せない己の幼さだと指摘されてしまえばそれまでだ。それでもキリエは、そんなふうに歪なコンプレックスを抱く相手であるジェームズに心配されることが情けなくて、恥ずかしくて、時折どうしようもなくなる。

「うん、ごめんなさい」
「つれていこうか?」
「いい。ひとりでいけるわ」

 キリエが首を振ると、ジェームズはすこし眉を下げて、

「そうかい」

 と言った。なにを悲しそうにするのだ。キリエはいたたまれない思いになる。

「もうかまわないで」

 畳みかけると、背中越しにいっそう眉を下げたのがわかった。ジェームズはなにも言わない。傷つけたろうかと思ったけれど、そんな心のうちまで、ジェームズにはきっとお見通しだろう。
 キリエが立ち上がって、自分の部屋がある階段を上がってゆく。上り切って、キリエの姿が角に消えた。
 ジェームズはひとり残されて、点いたままの暖炉の火に目をやった。