“神の子”とかいう仰々しい云われのデュバイルが誕生したことで催された祭りで、アルバトロスが大発火を起こしたと思ったら聖結晶がぶっ壊れて人間界に飛ばされて、しかもモノバイルだけじゃなくてホロウとかいうケイ素の砂芋虫みてえな悪霊がうじゃうじゃいるところで、ついでに言うと死神とかいう小説にしか出てこないような生き物も実在するのだという。
 もう何を信じたらいいのかわからなくなるのは道理だと思わないか?

「ああっ、くそまた虚かよ!ふざけんなよここ重霊地だろ!死神共仕事しやがれ!」

 大声で文句を言いながら、ふつふつと収まらない怒りを目一杯込め仮面に向かってフェルミノードを振り下ろす。飴細工を握り潰したかのようにぱりんと乾いた音を立てて仮面が割れ、虚だったものはしゅるりと気中に溶けて消えていった。
 本来ならば現世駐在任務担当の死神がやるはずの魂葬をしている俺って一体なんなんだろう。真面目か。もう泣きたい。

 人間界に飛ばされてから何年経ったかなんてもう覚えていないけれど、俺の片割れどころかそもそもモノバイルには一向に会わないし、そのくせ死神にばかりエンカウントするしで、もしかしたら疫病神にでも憑かれているのかもしれないと思ったのは仕方のないことだと思う。
 こっちの人間との接触は確か、ウラハラと名乗る自称死神の変態に人間界の構成を教えてもらったのがはじまりだった。ウラハラ、もとい浦原の話を聞く限り、どうやらここでは素石命図なんて定義は存在せず、モノバイルに対しての認知も皆無に等しいうえに、霊力とやらが幅を利かせているらしい。レイアツだのホロウだのザンパクトウだの専門用語まみれで正直ちんぷんかんぷんもいいところだ。尸魂界とかなんだよ意味わかんねえ。

 けれど最近になって、正直言って俺モノバイルでよかったかも、とも思うのだ。水素や酸素のモノバイルではないから人間界の水は飲めないけれど、代わりに休炉状態でも食料はほとんど必要ないし、光の聖結晶とそれを憑依させるための護剣フェルミノードは持っているし、まあ燃やせる石がないからほぼ休炉状態で生活することになるとは思うけれど、割と生き延びていけそうな気がする。逆に考えればモノバイルに会わないということは聖結晶を奪われる心配もない、ということだ。これは今現在活炉できない俺にとってそれなりに好都合、非常に有利に働くんじゃないか、とか楽観的な考えは戦争中の身にも関わらず甘いかもしれないが、とにかく今は生きることが最優先だと。
 いつモノバイルに遭遇して聖結晶や命の奪い合いになるかわかったものではないし、フェルミノードも早いところ制御できるようにしないとおちおち休息もとれやしないじゃないか、と戦々恐々していたところに再度浦原の登場だ。どうやら浦原は尸魂界と人間界(浦原曰く現世と呼ぶらしい)についてはかなりそこいらの人間より詳しいらしく(そもそも人間じゃなくて死神だった。仕事しろと言ったら私の管轄じゃありませんとか言われた。ファック!)、そして人間ではないからなのか真相は定かではないにしろ霊力が一般の人間よりも強いらしい上に何故か斬魄刀とやらではないのに虚を魂葬できてしまう護剣フェルミノードを持つ俺は半ば無理やり尸魂界に連行されたのである。人間ですらない、しかもまだ死んでもいないやつを勝手に死神の界隈に連れていくなよと突っ込みたくなったけれども大概人の話を聞かない浦原に聞き流された。ほんとこいつ燃やしてやろうか。俺がストロンチウムのモノバイルじゃないことに感謝して生きろと思った。もう既に一度死んでるらしいけれども。ゾンビギャグかよ。

 曰く、尸魂界は流魂街と瀞霊廷の二つに分かれていて、瀞霊廷内に護廷十三隊とかいう現世と尸魂界の近郊を保つために作られた軍隊のようなものがあるらしい。そこの一番偉い人に護廷に入らんかとか宗教勧誘紛いのことをされ、死神じゃないからと断れば、ならば死神になればよかろうと言われ、ほんとこいつら人の話聞かねえなと文句を言う隙もなくあれよあれよと真央霊術院とかいう寺子屋に入らされ、死神についてのイロハを学ばされ、それから三年後には晴れてモノバイル兼死神となりましたとさ。ちゃんちゃん。
彼のはじまり

2015.07.26
BLDになる予定でした