離さない、とちゃうくて、離せないんちゃうか。 響がそんなふうに言った。特別ばかにしたような冷やかしの色はない。単に僕と、僕の傍らで舟をこぐクロームとを見比べて持った感想を、そのままするりと口に出したような言い方だった。 「依存されとんのやお前」 「いえ、お互いさまですよ、そこは」 僕は肩を竦める。薄目を開いたクロームに気づいて僕も響も、どちらからでもなく口をつぐんだ。この話はもうやめだ。