甘え上手



「わぁ、ありがとう」

 寒い寒いとやかましいから、自販機で缶の紅茶を買った。もちろん俺のおごりだ。この世界で人生の半分を過ごしているのだから特にめずらしい性質でもなかったけれど、こいつは俺に対してやたらと甘え上手だ。ありがとう、を忘れない律儀なところ。憎めないのである。

「あったか~い」自販機の表記みたいに言う。

「これで満足か」
「堂上やぁさしい~」

 俺の手もろとも缶を包み込んだ成瀬が、数センチ上で笑う。満足げな顔。間延びしたわざと高めの低い声にどうしてか腹が立つ。「うるさい」ぐっとネクタイを引いて顔を近づけ、ぶつけるようなキスをくれてやった。