大事な学年だから二回繰り返しました、を見事にやってのけた二つ上だけれど一つ上の学年のひと。
「さん」
男子学生にはまずいないだろう傷一つない肌の美しさとか睫毛の長さとか、ツンとしてて無口なのはただの人見知りで本当はとても面倒見のいい人だとか、親しくなければおよそ気づかないような、実沢伊澄というひとについてのいろんなことを、僕はたくさん知っている。
「なあに、月島」
僕にこたえてくれる声が柔らかくなってきていることも、伊澄さんが僕のことを、僕の前以外では蛍と呼んでいることも、知っている。
「蛍って呼んでください」
伊澄さんはひどく驚いた顔をした。愛おしいと思う。この気持ちは、ひとつもおかしいものではない。「ねえ。伊澄さん、僕、伊澄さんのこと、」だってともだちにしては、あまりにいろいろと知りすぎているのだ。