どうすれば貴方に伝わるのかな。


***


「どういうつもり?」
「え、酔った勢い?」
「俺に聞くなよ」

 わかっている。一郎くんはみんなのものだ。決してわたしなんかのものじゃない。どんなに周囲を出し抜いたつもりになって優越感に浸ろうとしたって、いつだって明日の見えない不安に押し潰されそうになる。
 その一切合切を振り払うように彼の首に腕を回して、どうか気づいてくれますように、そっと祈るようなキスをした。
 ねえお願い、どうか今は、今だけは、わたしだけを見ていて。わたししか見ないで。



「どういうつもりだ?」
「ムカついたから」
「だからってなあ、」
「だって左馬刻さん、こうでもしなきゃわたしを見てくれないから」

 端整な顔の眉間にぎゅうと皺を寄せて、苛立ちを隠しもしない彼を見ながら最後の夜を覚悟する。最低な女だ、ほんとうに、どうしようもないくらい。
 それでも、彼のことがどうしようもないくらいに好きだった。わたしを選んで欲しかった。わたしだけを選んで欲しかった。
 わたしの願いはそのたったひとつなのに、まるで世界からすべての戦争をなくすことみたいに難しいことのように思えるのだった。

「……俺が悪かったよ」

 ねえ、わかってるくせに。わたしが欲しいのはそんな、なまぬるい言葉なんかじゃない。

▽▽


「どういうつもり?」

 乱数くんは怒っているだろうか。それとも呆れているだろうか。

「……好き、だよ。乱数くんが好き」

 どんなに懇願したって手に入らない。それをわかっていて、諦念を抱きながらもみっともなく泣いて縋って。
 こんなの、ひたすらに苦しいだけだ。やめられるのならば、もうやめてしまいたい。
 それでもなお愛を欲しがるわたしは、ただのわがままな子どもだった。

「うん、知ってる。分かってるから」

 男の"分かってる"なんて、所詮は口だけだ。なんにも、これっぽっちもわかってなんかいないくせに。わたしの汚い心も、欲深い熱だって。
 どうやったって叶わないなら、いっそこのまま、人魚姫みたいに泡となって消えてしまいたい。

▽▽▽


「どういうつもりだい?」
「いや、別に」
「誘っているのかな?」
「そういうわけじゃないです、けど」

 抵抗らしい抵抗すらしない寂雷さんの身体に体重をかけてぐっと簡易ベッドに押し倒した。
 あたたかく鼓動する彼の心音に触れただけで、わたしはひどく泣きたくなる。身体は誰よりもなによりも近くにあるはずなのに、どうして肝心のこころはこんなにも遠いんだろう。
 こころもからだも、皮膚も内臓も、その内側に張り付いた薄汚い怨念も、ついでに過去も未来もぜんぶまとめて、わたしのすべてをあなたに捧げる準備はとっくのとうにできているのに。
 あなたは慈悲もなく、その存在のこれっぽっちもわたしにくれやしない。