たとえばその顔がこちらを見て、視界にわたしを映すのならば、きっとそのためにはなんだってしてしまうだろうと思う反面、彼の持つ、目が潰れてしまいそうな眩しさに思わず顔を覆いたくなる。
胸を張って美しいと自分の顔について断言出来る人間、特に女はいるだろうか。ゆるく巻いた毛先を、ネイルチップより一回りほど小さい、ささやかなラメの入ったマニキュアで色付けされた指先で弄ぶ。彼の視線から逃げるように。
姿勢が正しく、背筋のまっすぐな彼の身体すべての輪郭を見つめる。目を見張るような鮮やかさを持った赤い髪色のせいではなく、はたまた夕闇を見つめる猫のような鋭さを持った金色の瞳のせいでもなく、彼自身の魂に宿る生命力が溢れるように燦然と輝いている人。名古屋城と桜を背負った縹色のスカジャンをかき合せるようにした指先、爪の形が何度も見ているはずなのに小さく感じた。
わたしに視線を合わせた空却が小さく首を傾げる。見惚れられていることにもきっと慣れているだろう。それでも、なんでもないというような少年じみた澄んだ瞳がわたしを映す。中に着た裳付衣から伸びる首筋の線は白い。
「何だ、どうした」
自信ありげな含みを持ったやわらかな声が、わたしにだけ向けられている。ふわりとした素材のそのスカジャンにわたしは手を伸ばすと、彼が僅かだけ目を見開いた。いつだって余裕綽々で動じることのなさそうな彼に予想外というような顔をさせたのが気持ちよかった。
つるつる、ふわふわしたそのありふれた手触り。長い睫毛は重たげに下がったまま、数度、まばたきのたびに揺れる。
「似合ってるね」
目を逸らし、触れた感覚を忘れないように強く手を握りしめた。
「おう、拙僧もこれ気に入ってんだわ」
薄い唇の口角がきゅうと持ち上げられた。
「うん」
彼の瞳に映る自分も、手の感触も、声の正しさも、すべてがわたしの胸をきつく、熱く、苦しくさせる。こんな気持ちになりたくない。それでも、こうなって、苦しくて、俯いて、触れたばかりの手を握りしめた。
空却。
声には出さないまま心のなかでひっそりと呟いて、また、太陽を背負っているかのように輝く輪郭に縁取られた彼の端正な横顔を視線でなぞる。